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2015の掉尾を飾るミステリー「ミレニアム4」
・2015年の海外ミステリーといえば、フランスの作家、ピエール・ルメートルに始まりそれで終わるのかと思われました。「その女アレックス」は累計60万部とかで今年のオリコン文庫部門の3位、6つの賞を取りベストセラー作家として本人も来日しました。
・ついで今年出版された「死のドレスを花嫁に」「悲しみのイレーヌ」「天国でまた会おう」すべて読みましたが、プロットや筆力は秀逸です。ただいずれも読後感は暗く、後味が悪い(こういうリアルなのが好きな人もいると思いますが)。たぶん作家のキャラクターですね。
・で、今年はP・コーンウエルもジェフリー・ディーヴァーの新作もパッとしなかったので翻訳ミステリー不作の年かと思っていたら、あのスウェーデンの大ベストセラー「ミレニアム」の続編4が年末に出ました。
・スティーグ・ラーソンは刊行前に(世界で8000万部という大ヒットを知ることなく)亡くなりますが、1、2、3に続く原稿が残されていたといいます。しかし、それとは関係なくダヴィド・ラーゲルクランツという作家が書き下ろしたのが4だそうです。
・別の作家が後を引き継いで書くことはよくありますが、同じくらい面白くなることはまずありません。ロバート・B・パーカーがチャンドラーの書きかけ(ロンググッドバイの続編)を完成させた「プードルスプリングス物語」もジェフリー・ディーヴァーの007「007白紙委任状」もイマイチです。
・ところがこのラーゲルクランツ作の「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」は文句なく面白いです。雑誌ミレニアムと編集主筆ミカエル・ブルムクビスト、リスベット・サランデルというハッカーを中心に物語は展開しますが、テーマが今話題の人工知能ということ、アメリカのNSA(国家安全保障局)を巻き込むスケールの大きさなどは相変わらず。
・それに前作を読んできた者には、ほぼすべてのかつての関係者が登場するので嬉しくなります。ラーゲルクランツは前作を徹底的に読み込んだというのがよくわかります。海外ではすでにベストセラーになっていて、そのせいか、あと何作か出版されるようで実に楽しみです。
次号1月1日金曜日
by 2015.12.28