カテゴリ:メディア
22世紀の民主主義を読んでみた
・売れているというので読んでみました。最近テレビでよく見かけるイェール大学助教授の成田悠輔氏の「22世紀の民主主義」SB新書です。
・こういう論が今、まかり通っている。"日本は停滞している。政治を変えなければならない。若者が政治に関心がないからだ。"では彼らが選挙に行けば変わるのか‥‥いや、若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない。
・だいたい若者はマイノリティーだし、彼らの投票先は高齢者の投票先とほとんど変わらない。20~30代の自民党支持率は60~70代より高い。つまり、若者が選挙に行ったって何も変わらない。ではどうするか。民主主義というゲームを作り変えなければならない。
・21世紀に入って、民主主義も資本主義も劣化している。この20年、民主主義国家ほど経済成長が低迷している。データによれば世界の専制、独裁国家の方が高い成長率を示している。中国の数値が大きいと思われがちだが、中国を外してもデータはそう語っている。
・20世紀、民主主義と資本主義はうまく回っていたのに、一体どうしてなのだろう。最大の違いは、インターネットの登場とSNSの普及ではないか。
・SNSという新しいメディアによるポピュリズムの台頭。トランプ前大統領のような自国第一主義。世論に忖度する民主主義の広がりが内向き志向を強め、長期展望を拒む。「明日の1000円より今日の100円」である。結果、新規投資がしぼみ、資本主義の停滞が続く‥‥。
・ではどうすればいいのか。結論を急ぐと、成田氏の専門分野である"データに基づくデジタル技術を駆使して、社会制度を改革すること"。つまり、大衆の民意+エリートの意見+情報データを融合して、最適な意思決定をすること。AIとアルゴリズム(問題解決手順のコンピュータプログラム)による"無意識民主主義"という新しい概念へ。
・司法、行政、立法の自動化ですね。で、政治家は"いい感じのキャラ(例えばネコのような)でいてくれたらいい‥‥これが成田氏のいう"22世紀の民主主義"ということのようです。今の日本の政治状況をみると、そう言いたくなる気持ちはわかります。しかし社会の安定はともかく、AIやアルゴリズムのIT任せの自動経済対策で景気が良くなりますかね(方法論はあまり詳しく述べていません)。まあ話としては面白いですけど。
・ところで、成田氏はあるTV番組でメディアについても語っています。SNSは扇動の増幅、フェイクニュース、陰謀論など問題が多い。一方テレビは良質な番組を制作すれば(再放送を多くしてコストを下げ)、影響力のある"最後のメディア"になると言ってます。
・メディアにいた者として、ちょっと違う意見です。SNSはまだ若いメディアなので安定していないだけです。メディアは古いものほど信用度が高く、新しいものほどうさんくさい‥‥瓦版→新聞→出版→ラジオ→テレビ→SNS。
・TV局の人間が出版物に憧れているのに驚いたことがあります。自分のメディアは"軽い"と。テレビが普及した頃、評論家の大宅壮一さんが「あんなもの観ていたら一億総白痴だ」と言っていましたが、今そんなことを言う人はいません。SNSがメディアとして定着するのはこれからです。
次号9月16日金曜日
by 2022.09.12