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J.アーチャーの新作、久々の快作
・小説家、漫画家、作曲家、映画監督などなど、クリエイティブな仕事をする表現者は、ほぼ例外なく"いい時期"というものがあります。それをよく知る作家もいて、例えばあの司馬遼太郎さんなどは、小説から随筆、紀行文に活躍の場を移しました。
・ゴルゴ13のさいとう・たかをさんが84歳でなお第一線で活躍しているのは、構成、脚本、作画、資料、マネージメント‥‥と分業、チームプレイに徹しているからだと思います。もちろん氏の構成やキャラ設定の才能が特別ということもありますが。
・ジェフリー・アーチャーという英国の人気小説家は、今や円熟のエンターテイナーで、新刊が出ると必ず手に取ります。しかし、ここ何年かに渡って読んだ「クリフトン年代記」は「J.アーチャーもピークを過ぎたのかな」と思わせる作品でした。
世界中で大ベストセラーになったとはいうのですが、日本では2013年から2017年にかけて、全7部(14巻)という大河ドラマで、時間を空けてバラバラに読んでいたために、感情移入が途切れたからかもしれません。
・完成してから毎月1部づつ刊行したら、昔の「ケインとアベル」のように楽しめたかも。まあ、個人的な感想ですが。
・この「クリフトン年代記」の主人公であるハリー・クリフトンは小説家なのですが、彼が書く小説にウィリアム・ウォーウィックという登場人物がいます。このキャラクターからスピンオフして生まれたのが、最新作「レンブラントをとり返せ」新潮文庫刊です。
・「百万ドルをとり返せ」に及びませんがこれも面白いです。本人が「これは警察小説ではない、警察官の物語である」と前文に書いているように、スコットランドヤードに配属された新米巡査の物語で、所属は美術骨董捜査班。
・出てくるものが沈没船の希少銀貨だったり、レンブラントやルーベンスなどの名画という昔ながらのお宝に加えて、捜査に関しても1979年という時代設定がパソコン黎明期のために、最近のサスペンスやミステリーには必ず登場するウェブ検索、スマートフォン、GPS追跡のようなハイテクIT系が出てこず、シニアには実に読みやすいです。作者が今年80歳ということも関係あるかもしれませんが。
・サーガ(年代記)好きのJ.アーチャーですが、本人も言っているように、はたして主人公が巡査から警視総監なるまで書き続けられるかどうか。巧みなストーリーテラーが減っている昨今、頑張って欲しいです。
次号3月5日金曜日
by 2021.03.01