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海外のミステリーと比べてみれば
・本年度ミステリー賞が3冠というキャッチ惹かれて、米澤穂信著文藝春秋刊「可燃物」を読んでみました。話題とかベストセラーとかの日本のミステリー小説をしばしば読むのですが、どうにも物足りなくて翻訳海外ミステリーの方が多くなります。
・理由は簡単で、犯罪の動機が"借金、情欲、暴力団"とワンパターンで、スケールが小さい。それよりも問題なのは主人公の設定が曖昧な点です。出版界でコミックが質、量とも圧倒したのはキャラクターの描き方が明快な点。当たり前ですが、コミックは絵にするためキャラ決めが最重要課題で、映画では俳優になります。つまり解りやすい。
・小説は、特にエンターテインメント小説は、読者が感情移入するために主人公の描写を必要以上にしなければいけないのですが、私小説の伝統があるせいか"語り"に重きを置かれます。
・「可燃物」の場合はどうかというと、やはり主人公の葛警部はやや強引な捜査指揮をとり、反発する部下がいる程度で、上司の言うことには従い、とりわけ個性的な捜査官ではありません。歳、言葉遣い、経歴、身体的特徴、眼鏡使用、ヘアスタイル、歩き方などなど、冒頭の登場では描かれていません。コミックなら一目でわかることですが、小説では一体どんな人物なのか教えて欲しいです。
・犯罪も"街場"のそれで、特別ハラハラドキドキはありません。要は好みの問題なのでとやかく言うことではないのですが‥‥。
・最近読んだ翻訳ミステリーは欧米ミステリー界の3巨匠のひとりジェフリー・ディーヴァーの新刊、コルター・ショウシリーズ「ハンティング・タイム」。今回、主人公のコルターは懸賞金ハンターとしてではなくボディーガードとして登場。
・鑑識捜査の天才リンカーン・ライムや人間嘘発見器キャサリン・ダンスなどのシリーズに比べると今一つパッとしなかったのですが、今作はどうか。半分ぐらいまで暴力夫から逃げる妻子に割かれていていい加減嫌になりますが、後半やっとディーヴァー節が炸裂し、読ませます。
・ただ、得意のドンデン返しも今やうすうす透けて見えます。それにしても四六判上製本ではなく文庫で出して欲しい(何年か後にはなるのですが、高齢読者には重くかさばって持ち歩けない)。ちなみにMコナリーやLチャイルドは文庫で出ます(講談社)。
次号12月29日金曜日
by 2023.12.25