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今の子は熱帯雨林では生き残れない
マイケル・クライトンの最新作として「マイクロワールド」というSFが書店に並んでいます。たしか遺作がパソコンmacの中に残っていた「パイレーツー略奪海域」という海洋冒険小説だと思っていたのですが、まだあったんです。クライトンといえば、小説や映画で大ヒットした「ジュラシックパーク」で有名な作家ですが、残念なことに2008年に66歳の若さでなくなりました。ハーバードの医学部で博士号を取得しているだけにTVドラマ「ER緊急治療室」では製作総指揮でした。
舞台はハワイのオアフ島、特殊な技術で2センチのマイクロサイズに縮小された人間が、熱帯雨林の豊富な薬用資源を探査するベンチャー企業の研究所を中心に物語が展開します。この本の冒頭にクライトンの書き残した序文があります。
「このままいけば、いま以上に自然から隔絶された学童の新世代が出現しても不思議ではない。それは極論だとしても、すくなくとも学校では、”どんな問題にもかならず答えがある”と教わるはずだ。しかし生命には、不確実性、神秘性、不可知の側面が多く、子供たちがそれを発見できるのは、現実の自然界をおいてない。自然のもとで遊ぶ機会がたっぷりあれば・・・・・・」酒井昭伸訳
子供に昆虫を触らせようという趣旨の「むしむし探し隊」なるNPO法人を、解剖学者の養老孟司さん、ファーブル翻訳の仏文学者・奥本大三郎さん、生物学者の池田清彦さんの協力で立ち上げ、活動しているのですが、三先生が日頃語っていることとまったく同じだったので長く引用しました。マイクロサイズになった人間が、寄生蜂やムカデ、クモ、コウモリと戦い、虫好き、自然ファンにはうれしい設定も楽しめます。ただ、リチャード・プレストンという作家が話をまとめたのですが(4分の1しかなかったそうです)、クライトンのプロットに縛られたのかどうかわかりませんが、主人公がはっきりせず、登場人物に感情移入しにくいのが難点です。もっともクライトンはキャラクターよりストーリーテリングの作家なのでとうぜんかもしれませんが。
by 2012.05.14