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二人の人物に学ぶ監視社会の過ごし方
・久しぶりに面白い海外サスペンス&アクション小説が二つ、書店に並んでいます。一つはリー・チャイルド「61時間」上下・講談社文庫。元米軍憲兵のジャック・リーチャーのシリーズ最新作です。
・2013年トム・クルーズで映画化(作品名アウトロー)されてヒットしたあのシリーズです。バスやヒッチハイクで放浪中に、地方都市で事件に巻き込まれてそれを解決に導く(なにしろ元捜査官、しかも優秀な)というパターンは同じですが、今回は米軍が絡んだ町の歴史と謎に挑みます。
・前作の「最重要容疑者」は今一つぱっとしないストーリー展開と状況解説に終始したので、リー・チャイルドもいい時期を過ぎたのかと思ったのですが、安心しました(つづく、となっているのが気になりますが)。ところで、11月に同じトム・クルーズで映画が公開されます(作品はこれではなく別で、本も同時発売)。楽しみです。
・もう一つはマーク・グリーニー「暗殺者の反撃」上下・早川文庫。CIAの特殊活動部員、コート・ジェントリーのシリーズです。グレイマンと呼ばれる身を隠すすべに優れた上に、格闘技の超プロフェッショナルのアクションものですが、ある作戦遂行後からなぜかCIAから抹殺指令を受けるようになります。逃げ回りつつ要人暗殺(独裁者やギャングの首領)を続ける主人公が、狙われる理由を質すべくアメリカに潜入、ついにその真相が明らかになります。なお、これで大団円の終了ではなくグレイマンシリーズは続くようです。
・ところでこの2作品の主人公二人には、共通するキャラクター設定があります。自らの個人情報をいっさい世間や公機関に把握されないようにすること。ジャック・リーチャーは、IDカード、パスポート、免許証、クレジットカード、もちろん携帯もスマホも持っていません。移動はバスかヒッチハイクで、衣類も持たず数日で買い換えるという徹底ぶりです。
・一方グレイマンも同様に身分証やカード類を持っていません。アメリカ帰国も港まで船舶に潜んで密入国、現金や武器はギャングを襲って手に入れます。抹殺指令を受けているので、あらゆる監視カメラを避け、現金決済で記録を残さず、治安の悪い地区に潜り込みます。
・街角や店の監視カメラ、カーナンバーを捉えるNシステム、GPSによる携帯、スマホの位置情報、メールや電話の監視、クレジットカードやポイントカードによる記録、履歴などなど、現代は超監視社会でますます息苦しくなっていきますが、リーチャーやグレイマンの過ごし方が参考になるやもしれません。
次号8月5日金曜日
by 2016.08.01