クールシニアのウェブマガジン

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クールは「カッコイイ」ですが、背筋をのばして歩く60+シニアの情報を集めます。

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エディター

中村 滋 Shigeru Nakamura

BE-PAL、DIME、サライなどライフスタイル雑誌を創刊。

カテゴリ:メディア 

コミックが小説を凌駕した理由

・出版業界のマイナス成長が続いている一方で、デジタル部門が前年比40%の+と、メディアの大転換期がきています。少年ジャンプが200万部を割ったとニュースになっていますが、それは印刷物の話で相変わらずコミックの影響力は大で、テレビドラマも映画もコミック頼りです。

・新聞・テレビのマスメディアは芥川賞や直木賞、それに本屋大賞が好きで盛んに取り上げますが、部数や影響力はコミックと比べると話になりません。村上春樹がトータルどれだけ売れても、人気漫画の初版部数に及びません(声高にいうことではありませんが)。

・この理由は何かといえば、コミックの作り方にあります。「物語」は時代や状況、ストーリー、それに主人公などの設定が重要ですが、コミックはまず最初に登場人物のキャラクター設定が最優先されます。

・魅力的なキャラクターが生まれれば、作品は出来たも同然で時代劇にもミステリーにも純文学にもなります。極端にいえば話(ストーリー)などなくても作品になります。20代の駆け出し編集者の頃、石森章太郎(後に石ノ森章太郎)さんの「佐武と市捕り物控」を担当していたのですが、コミックはキャラクターがすべてということを学びました。

・その「佐武市」に「白い夏」という作品があるのですが、連日太陽がジリジリ照りつけ、人々が思考を停止するような夏、主人公の市の心象風景を連続する白いページで表現します。

・何も描かれてなく、台詞もない表現なのですが、キャラクターが立っているために作品として成立しています(白いページも原稿料は払いましたが)。コミックは絵にするためにキャラクターを形にしなくてはなりません。その点小説は文字なので主人公の描写が必要以上に必要なのですが、日本は私小説の伝統が強いせいか希薄です。

・語り継がれる作品は、例えば夏目漱石の「坊ちゃん」のように登場人物のキャラクターをしっかり描いていて明快です(最近では浅見光彦とか新宿鮫とか、私的には主人公の設定はいいのですが、キャラクターの細部表現は少なくコミックほどにははっきりイメージが浮かびません)。

・さて、主人公のキャラクターが強烈だと作家の死後も作品が生まれます。最近、あの007のジェームス・ボンドが再び帰ってきました。「007逆襲のトリガー」角川書店四六判1900円。

・イアン・フレミング財団公式認定の007は何作もありますが、この新刊はイアン・フレミングの遺稿を使用していて他と少々異なります。ボンドがドイツのニュルブルクリンク・サーキットを走り殺人を防ぐのですが、レーシングドライバーとしてのボンド設定は記憶にありません(遺稿「サーキットの殺人」ではF1ドライバーとしてサーキットを走り、英国のレジェンドF1ドライバー、スターリング・モスが出てくるらしい)。

・作者はイギリスの人気作家、アンソニー・ホロヴィッツで、最近NHKで放映された英国アカデミー賞受賞「刑事フォイル」の脚本も担当。イアン・フレミングの遺稿使用のせいか大戦後の冷戦下のストーリーで、関連人物もオリジナルを引きずっていてそれはそれで面白いです。

・当然携帯電話もスマートフォンもインターネットもありませんが、アナログの秘密兵器でも十分楽しめることを再確認しました。この点、2011年に出版された(これもイアン・フレミング財団公認)ジェフリー・ディーヴァーの「007白紙委任状」は、ハイテク、デジタル満載、おかげでジェーヴァー得意のどんでん返しで大活躍です。文春文庫上下刊。

・時代は違ってますが、2冊とも似たような爆破テロを扱っていて読み比べると面白いです。

次号6月5日月曜日

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