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福島原発事故をヒントに描かれたユーロ電力危機
一家に一台設置されている旧式な電力メーター(100年以上変わってないそうです)をスマートメーターに替えようという動きがあります。例のスマートグリッドという次世代電力網の末端がそれになります。発電、供給、使用をネットワークで結んで電力を効率よく細かにコントロールしようというわけです。
アメリカと違い日本の電力網はじゅうぶんスマート(賢い)だそうで、停電などほとんどありませんが、分散型小規模発電が増えたり、太陽光発電、風力発電などの不安定な新エネルギーを取り込んでいくには、このスマートグリッドが必要といわれています。
ただ、このIT(情報技術)を使ったネットワークは、ウエブとコンピュータで構築されるためにたぶん新たな問題が起こりそうです。それをミステリーで仕立てたのがドイツでベストセラーになったという角川書店の新刊「ブラックアウト」。
ある日突然、ヨーロッパの国々が次々と電力ダウンし、水道、信号、ガソリンポンプ、照明、テレビ、パソコン、そして原発などすべてがストップ。ついで食料、水不足による暴動へ。電力がなくなるとどうなるか、昨年我々が体験したことを含めて事細かなシミュレーションが描かれます(福島の原発事故も例として登場します。というか、著者の発想は日本での原発事故とその後の混乱を、ヨーロッパに置き換えたらどうなるかだったのではないでしょうか)。
原因がわからず、関係者が右往左往している中、一人のイタリア人IT技術者(元ハッカー)が、自宅のスマートメーターに不思議なコードが表示されていることに気がつき、調べ始めます。実はヨーロッパでスマートメーターを導入したのはイタリアとスウェーデンで、まさにこの2国から電力ダウンが始まります。
ミステリーとしての出来はAマイナスといったところでしょうか。というのも、アクションシーンは良いとして、謎解きの部分がコンピュータ・プログラムの専門用語なので一般人にはなんともわかりにくい。まあ、「どうやったのか」より「どうなるのか」がテーマなんでしょうが。
最近のミステリーは、一昔前の機械に弱く暴力に訴える主人公から、ふつうにパソコンを使いこなすキャラクターに変わってきました。ハードボイルドは風前の灯火です。
「ブラックアウト」上下 角川文庫 マルク・エルスベルグ著 猪股和夫・竹之内悦子訳
by 2012.08.13