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賞やランキングはあてになるか?
・『カササギ殺人事件』という文庫が昨年暮れから書店に並んでいます。帯に「史上初!年末ミステリランキング1位4冠全制覇」とあるので読んだ人もいるかもしません。
・4つというのは、宝島社、週刊文春、原書房、ハヤカワミステリマガジンで、いずれも出版社がやっているミステリーの評価です。
・はたしてこれらはあてになるのか。というのも、芥川賞、直木賞、本屋大賞、江戸川乱歩賞などなど、たくさん賞がありますが、読んでみたものの、個人的にはなにこれ? が続いています。まあ、こっちの“好みがはっきりしているから”ということもあるのですが。
・『騎士団長殺し』が文庫になりましたが、なぜか周辺に村上春樹を愛読する人はほとんどいません。何度か挑戦して途中で投げ出しました(あのハリーポッターも)。結局、人の好みは様々で、作品の良し悪しを簡単に人に言える時代ではなくなりました。
・出版社もテレビ局も、読者や視聴者の好みが多様化したことに危機感をもつべきです。売れるもの、ウケるものを伸ばそうとするばかりで、その他少数を切り捨てていますが、これが今のテレビを見ない若者、出版不況の原因です。
・細分化といえば、翻訳ミステリーも好みが分かれます。アガサ・クリスティーやコナン・ドイルを代表とする探偵物の「本格ミステリー」、犯人とのやりとりを楽しむジェフリー・ディーヴァーやマイクル・コナリーの「サスペンスもの」、さらにペール・ヴァールー&マイ・シューヴァルやヘニング・マンケルの「警察小説」が好きな読者まで、いくつかに分類されます。
・さて、この『カササギ殺人事件』上下2巻 創元推理文庫はどうか。作者のアンソニー・ホロヴィッツはコナン・ドイル財団公認『シャーロック・ホームズ 絹の家』とかイアン・フレミング財団公認『007 逆襲のトリガー』で話題になりました。
・優れたエンターテインメント小説は、魅力的なキャラクター、ワクワクするストーリーテリング、そして意外な結末の三拍子が要求されますが、“カササギ”は最初の二つはまあまあですが、三つ目のドンデン返しは秀逸です。
・仕立てはアガサ・クリスティーばりの本格ミステリーで、怪しい人物だらけの伏線満載を探偵が捌いていきます。
・と、前半は謎解きミステリーファン向きの展開で、探偵ものとしてそこそこ楽しめるのですが、下巻になると状況が一変します。話が“カササギ殺人事件”の1955年から現代に移り、二つの時代が交差しながら、言ってみればフィクションにフィクションを重ねる様に展開します。
・これは今までなかった斬新な構成で、アガサ・クリスティーのトリックばりの画期的手法です。個人的には、先程あげた2番目のサスペンスものファンなのですが、超久しぶりに本格謎解きミステリーを楽しみました。
・レコード大賞も文学賞、アカデミー賞も、今やあてになりません。作品が駄目なのでなくこちらの目が肥えたのであります。賞やランキングに「騙されないぞ」というスタンスは多分変わりませんが、この『カササギ殺人事件』はランキング4冠が正しいのか、ミステリーファンなら読む価値ありです。
次号3月8日金曜日
by 2019.03.04