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築城、作庭、茶道でこき使われた武士
・今、刮目すべき若い女優がいます。清原果耶、17歳。NHKの朝の連ドラ「なつぞら」で、広瀬すずの妹役で登場し、ほんのわずかな出番なのに話題になりました。演技はさらに磨かれていくと思いますが、なんとも印象的な役者です。
・その彼女が同じNHKのBS時代劇「菜々の剣」で主役の菜々を演じていて、太刀を振り回す殺陣に挑戦しています。話は武家の女中になって、父の無念を晴らす復讐劇なのですが、清原果耶の存在感に加えて、谷村美月、濱田マリ、宇梶郷士、石橋蓮司、イッセー尾形といった名脇役揃いで、ちょっと演出の軽いところがありますが、そこそこ魅せます(9月6日の金曜日夜9時からが最終回)。
・原作は直木賞作家・葉室 麟の「螢草」(双葉文庫)。TV化で細部が変わることはよくあることですが、かなり物語を変えていて編集者的にはちょっと心配なくらいです(著者は2年前に逝去)。
・代表作「蜩ノ記」で知られる時代小説家ですが、最近興味深い文庫新刊が出ました。「孤篷のひと」(こほうのひと、角川文庫)。小堀遠州の物語です。小堀遠州といえば、遠州流という枯山水の作庭家、あるいは千利休、古田織部に連なる茶人として有名です。
・昔から気になる興味深い人物で、大昔に手に入れた人物伝を一冊持っているのですが、小説は見たことありません。父の後を継いで土木工事の作事奉行を務め、家康の駿府城、名古屋城の天守閣、二条城などに関わり、作庭家としては、書院式枯山水の南禅寺や借景で有名な岡山の頼久寺を作り、さらに将軍家の茶道指南役にもつきます。
・江戸時代寛永年間に“綺麗さび”という茶の世界感を提唱。利休や織部の侘び寂びから、美しさ、明るさ、豊かさを求めたといいます。この遠州の綺麗さびについては多くの書籍があります。
・「孤篷のひと」を読むと、千利休や古田織部のような野心家ではなく(そのせいでこの2人は切腹を命じられる)、どうも使う人より使われる人で、人を引き廻さず、茶を通しての謀(はかりごと)も、平和を求めたからという具合です。
・主人公は遠州ですが、千利休、古田織部、後水尾天皇、安国寺恵瓊、沢庵、藤堂高虎、伊達政宗といった強烈な個性に対して、一歩引いた脇役として描かれています。
・コミック編集者の経験から言うと、キャラクターが弱いので物語としてまとめにくく、それが小説がなかった理由かもしれません。
・ともあれ、時の権力者に土木工事、庭造り、茶道などなどで散々こき使われたようで、69歳で亡くなる間際の言葉が「ああ、疲れた」だったと、司馬遼太郎氏のエッセイで読んだ記憶があります。
次号9月6日金曜日
by 2019.09.02