クールシニアのウェブマガジン

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クールは「カッコイイ」ですが、背筋をのばして歩く60+シニアの情報を集めます。

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中村 滋 Shigeru Nakamura

BE-PAL、DIME、サライなどライフスタイル雑誌を創刊。

カテゴリ:メディア 

話題の「人新世の資本論」を読む

・人新世(ひとしんせい)という馴染みのない言葉を最近知りました。「人新世の資本論」という集英社新書の新聞広告を見た数日後に、新聞に解説が載りました(あの白亜紀とかジュラ紀という言い方と同じ時代区分で、人が地球環境を改変する時代)。新書大賞を受賞し、売れているというので読んでいたら、今度は月刊文藝春秋で対談と書評の2か所で取り上げています。

 

・久しぶりに頭を使う書籍です。まず気候変動と環境破壊の現状、CO2削減やSDGsで乗り越えようとしているが、もはや資本主義は限界が見えている。構造改革をし、生産性を上げ、技術革新を進めた結果がこれ。

 

・世界の10%富裕層がCO2を50%排出し、裕福な資産家26人の資産が貧困層38億人(世界人口の約半分)の総資産と同額で、驚くべき格差の広がり。

・経済成長を優先した地球規模での開発と破壊(資源、食糧を先進国が吸い上げ、発展途上国へ環境破壊を押し付け)、すなわち資本主義そのものが気候変動の原因であり、市場原理ではCO2は削減できない‥‥。

 

・あのスウェーデンのグレタ・トゥーンベリ氏が訴えたこと、現状を理論的に解説しています。

・では、その解決のためにどうすればいいのか。この環境危機を乗り切るには脱成長しかない、すなわちマルクスが晩年に行き着いた脱成長コミュニズムこそ解決策である‥‥と著者の斎藤幸平氏(大阪市立大学大学院准教授)はいうのですが、「今、マルクス? 」と、けっこう戸惑います。

・資本論を読んだことがないし、マルクスもよく知らないのですが、失敗した社会主義思想ではなく、21世紀のマルクス思想の読み方があるのだと氏はいいます。

 

・現状認識に関しては全く異論がありません。気候変動に加えて、グローバリズムで加速する経済格差、このまま成長を続けていけるとは思えません。

 

・ただ「成長より持続」の方法が、21世紀型のコミュニズム=石油メジャー、大銀行、GAFAの公共化、水、電力、住居、医療、教育といった公共財を民主的にみんなで管理、画一的な分業から魅力的な労働へ、CMで欲望を煽らず、投資銀行も24時間営業も不要、売り上げ増大より使用価値の高いものを生み出す労働へ、信頼と相互扶助が必要、3.5%が動けば革命は起こる‥‥などなど、やはりかつての社会主義を思い起こします。はたして人は民主的話し合いや良識、教養で動くのか?

 

・社会主義が失敗し資本主義が残った理由は、人間の欲望に添ったからで、今低成長の中でその欲望の方向をどう治めればいいのかが課題。人は利で動く生き物です。あの南米ウルグアイの最も貧しい大統領ホセ・ムヒカの生き方がわからないわけではありませんが‥‥。

 

・昔から思っていることですが、"20世紀は最大化の世紀、21世紀は最適化の時代"といいます。とすれば、「AIで需要と供給を最適化して無駄をなくし、ITで多様化細分化に対応、そして利は積小為大(小を積めば大と為る)」がその答え。道具を作ったホモ・ファーベルは、やはりイノベーションで解決するのが理に適っていると思いますが。

 

・ただ、事業拡大と前年比売上増を今なお唱えているリーダーにはこの本をぜひ読んで貰いたいです。例えば金の卵を次から次へ生み出す巨大ファンドを目指すというソフトバンクの孫氏、社員を前に3兆円企業へ向かうと宣言したユニクロの柳井氏などなど。

次号3月19日金曜日

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