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なぜソ連では女性兵士が前線へ?
・第11回アガサ・クリスティー賞の受賞作「同志少女よ、敵を撃て」(早川書房・四六判並製)を読みました。"選考会で満場一致"いう惹句につられて、です。
・物語はソ連の寒村、モスクワ北部のイワノスカヤ村で育った一人の少女が、ドイツ軍の侵攻による暴行、狼藉、母親の殺害を機に、復讐に燃える女性狙撃者として生きていく姿を描きます。
・作者である逢坂冬馬氏によれば、ソ連ではなぜ最前線に投入される女性兵士、しかも狙撃手が数多くいたのかに疑問を持ったからだと言います。
・スナイパーものが得意なあの傑作「極大射程」で知られるスティーブン・ハンターの「スナイパーの誇り」が思い浮かびました。独ソ戦でドイツ軍から"白い魔女"と怖れられたリュドミラ・ペトロアという女性狙撃手がなぜ記録から消えたのかを探る物語です。
・実在の人物に、リュドミラ・パヴリチェンコという、記録に残るだけで309名を射殺し、レーニン勲章を授与された女性がいます。「最強の女性狙撃手」というドキュメンタリーがあります(原書房)。このパヴリチェンコは、本書にも登場して主人公に影響を与えます。
・翻訳ものによくある、文化や宗教の違いによる表現の違和感は全くなく(日本人作家だから当たり前ですが)、最後まで一気に面白く読めます。あえて付け加えるなら、A・クリスティー賞という割には、思いもよらぬ展開、意外性、どんでん返しといったミステリー&サスペンス要素はほぼなく、若い女性狙撃手の生と死の苦悩、人間関係の物語と言えます。
・執筆動機の疑問は「自分なりの答えを出したつもり」と朝日新聞のインタビューで語っていますが、最後まで読んだ限りでは、ソ連に数多く存在した女性兵士及び狙撃手の理由はよくわかりません。
・多分もっと単純な話で、人間の平等を謳う社会主義国、「男女平等なんだから、女も前線で戦え」ということなんじゃないかと思いますが‥‥特に狙撃手なら体力差は問題にならないし。
次号12月10日金曜日
by 2021.12.06