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夏の雑草、エノコログサは子犬か猫か
空き地に細長いブラシのような草がたくさん生えています。夏の代表的な雑草、エノコログサです。ネコジャラシの名前で呼ばれるように、猫の前でこれを振ると喜んでじゃれてきます。面白いのはエノコロは子犬(エノコ)の尾(なまってロに)からつけられたということですが、ネコジャラシは猫ですし、ネコノシッポという方言もあります。英語では foxtailですから狐のしっぽです。
標準和名にはこういう面白いというか繊細というか、確かな観察眼でつけられたものが多いです。ヘクソカヅラとかママコノシリヌグイとかオオイヌノフグリとか変なのも多々ありますが、人と自然を同じ目線で見る日本人の自然観のすばらしさです。
なんでこんな名前なんだろうと思ったときに役立つ植物図鑑があります。偕成社が1985年から1992年にかけて出版した杉村 昇・著「名前といわれ野の草花図鑑」という図鑑で全5巻(最後の巻の発行に気がつかず4巻しか持ってません。アマゾンで探せばいくつか手に入ります)。同じような図鑑はありますが、これは由来の元を写真で並べていてたいへんわかりやすく、説明も専門用語を使わず平易です。これをパラパラめくっていると面白い名前がついている植物がたくさんあることに気がつきます。図鑑というより面白い本という読み方がよく、これで知った植物を探したこともあります。
たとえばウマノスズクサ。たまたま最近近所の垣根に花が咲いているのを見つけました(すごく印象的な花なのですぐわかります)。名前の由来は、実が馬の首にかける鈴に似ているからということで、実に先人は観察が細かい。でもこの実が熟して6つに割れたものを見た人は少ないらしいです。というのも都市の垣根に絡みつく蔓草で、実が熟す前に刈り取られてしまうからだそうです(発見した垣根のものも、その後見に行ったらきれいに刈り取られていました)。
ウマノスズクサはジャコウアゲハの食草で、幼虫はウマノスズクサの毒素を体内に取り込んで、羽化後も鳥に襲われない工夫をしていることで知られています。また、サナギはお菊虫と呼ばれ、その姿が後ろ手に縛られた播州皿屋敷の主人公お菊にそっくりというんですが、一方で彼女が身を投げた古井戸からジャコウアゲハが大量発生したからという説もあります。
そんなこんな話がその図鑑に載っているわけではありませんが、印刷物は想像や好奇心がふくらむのでネットでは得られない良さがあります。名前がわかればピンポイントで検索できる便利さがありますが、未検証や孫引きが多いのでネットの使い方はそれなりに注意がいります。
でもこういう書店で手に入らないユニークな図鑑がデジタル化され、スマートフォンなどの端末で見られるなら役に立つんですけれど。
イネ科の1年草。夏の空き地争奪戦で、オオアレチノギクやヒメムカシヨモギ(鉄道草)、ヨウシュヤマゴボウ、チョウセンアサガオ、ワルナスビなどの外来種連合に対抗してひとりがんばっている和製強力雑草。
上巻・早春〜夏、下巻・夏〜秋冬、3・続編の1、4・続編の2、5・続編の3の全5巻。絶版から10年経つのでネットで全巻そろえるのはたいへんかもしれません。
花がユニークで記憶に残ります。その丸い玉の部分に虫を誘い込んで受粉の役目をさせるようです。
by 2012.08.10