クールシニアのウェブマガジン

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クールは「カッコイイ」ですが、背筋をのばして歩く60+シニアの情報を集めます。

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エディター

中村 滋 Shigeru Nakamura

BE-PAL、DIME、サライなどライフスタイル雑誌を創刊。

カテゴリ:日用品 文房具 

文庫カバーの一級品選び

 早川書房のレイモンド・チャンドラー新訳版「リトル・シスター」村上春樹訳を読んでいたら、こんな文章が出てきました。「池はたくさんの肥った金魚と、無言の百合の浮き葉でいっぱいだった。夜だから百合は花弁を閉じている」。
 原文を見ていないのでわかりませんが、たぶん百合の浮き葉はlily padのことだと思います。スイレン(water lily、浮き葉がlily pad)ですね、百合ではなく。夜に花が閉じるというし。
 そういえば司馬遼太郎氏も週刊朝日の「街道を行く」連載の中で、西洋種のスイレン(赤や紫、黄色の鮮やかなもの)と日本固有種ヒツジグサを混同していました。ヒツジグサは未の刻ごろ(午後2時)に白い花を開くのでその名がついたということですが、真夏には朝から夕方まで花は咲いているので、まあ名前もいい加減ですからどうでもいい話ではあります。
 それよりも、このハヤカワ・ミステリ文庫は文庫サイズといいながら、ほかの文庫より背丈が1センチも大きい(その分文字も大きく読みやすいのですが)。なので、とくにミステリー好きのハヤカワ文庫ファンはカバーを購入するときは注意が必要です。
 文庫の場合、革のカバーは表紙がしっかりするので開きやすく閉じやすく、さらに滑らず持ちやすくなるので愛用しています。新潮文庫以外は栞(しおり)がないので、ポストイットの目印よりやはり栞つきカバーは便利です。
 ただし、カバーの一部をページに挟んで栞代わりにするものや、別の革片を挟む式のものは、いくら良い革を使っていても一手間増えるのでだめです。栞がついていて、細部の処理に優れ、使い込むほど味がでる上等の革を使用したプレミアム文庫カバーは二つ。
 日本製のエルゴポック(老舗鞄屋が作り始めて7年とまだ歴史は浅い)と、スコットランドのグレンロイヤル(創業して33年ですからこっちも老舗ではないです)の2社の革文庫カバーがおすすめ。
 グレンロイヤルはブライドル・ハイドという馬具用皮革を使っていて、蝋(ろう)が抜けてくると艶が増し、使うほど輝きます。6年ほど使っていますが、グレンロイヤルに一日の長ありです(国産がんばれ、です)。

サイズは高さが15センチの講談社、角川、RHブックス・プラス、創元推理など、15.5センチ弱の新潮、文春、光文社、そして最大16センチ弱のハヤカワの文庫と出版各社バラバラです。ちなみに元祖岩波文庫は15センチ。文庫のように大量に紙を使う出版物は専用用紙を作るので、サイズがいろいろでも無駄が出るわけではありません。

グレンロイヤルのロングセラーBOOK COVERの黒 9975円。色は9種類もあります。このほか新書用のSHINSYO BOOK COVER 12600円もあります。

グレンロイヤルの場合、文春文庫のタテ15.4センチだとゆとりありすぎですが、ハヤカワ文庫までらくらく入ります(日本の新書用カバーもそうですが、日本の事情をよくよく詳しい)。

表紙を左右のポケットに入れるタイプ。このため580ページほどが限度。まあ、滅多にそれ以上厚い文庫はありませんが(分冊しますから)。栞が中央につていて使い易い。ただし海外製品らしくはずれたので接着剤で留めました。

日本製エルゴポックのワキシドレザー・ブックカバー6510円。カラーは6種(写真はモスグリーン)。グレンロイヤルと同じで革が厚く、なじむまでやや時間がかかります。

タテ幅が小さく、ハヤカワの文庫はすんなり入りません。なんとか押し込んで入れました。カバー寸法を決めた人はミステリー、SF、アクションものをたぶん読まないのでしょう。

左はフリーになっていてよく使う文庫の厚さで折り曲げる方式ですが、くせがつくまでふくらんでいて見た目は今ひとつ。栞はカバー中央ではなくなぜか左にオフセットして付けてあります。さらに栞帯の幅が6ミリもあるのでよじれるとピッタリ本が閉まりません。また、栞って上を掴んだり、下を引っ張ったりするものですが、栞の先に革がついているので、挟んだ栞がスルッと抜けません(洋書についているしゃれたデザインの栞を参考にしたらいいと思いますが)。とまあ、制作者が日頃文庫カバーを使っていないことがわかります。

一級品は切り落とした革の断面にバフをかけて磨き、さらに塗料を塗って処理してあります、このへんが普及品との違いです。

ひも栞付き革製文庫カバー、今のところグレンロイヤルが一歩リード。値段が3500円も違いますが。グレンロイヤルはウォレットやパスケース、コインケースなど、いずれも使い込むほど艶と味が出て、革小物は秀逸です。

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